最後の課題

大学院課題8:なぜ統合失調症は異種的(heterogenous)なのか説明せよ。

Photo by Tranmautritam on Pexels.com

 統合失調症における家系研究や遺伝子研究がなされてきたが、必ずしも遺伝形式に則らない発現が報告されている他、家庭や生育環境によって発症から病態の経過が異なる.また生化学研究で用いられる生理検体が非均一であり、病態の把握可能なバイオマーカーがいまだ同定されていないため、統合失調症が一つの疾患である保証がない.よって統合失調症を単一の疾患と捉えるよりも異種性を生じる複数の病態からなる疾患群と仮定せざるをえないため.

課題2つ分

大学院課題6:不眠の原因となる5つの頭文字Pについて説明しなさい.

Photo by Egor Kamelev on Pexels.com

 痛み、かゆみ、咳などの身体的要因(physical)、寝室環境の変化、騒音光などによる環境変化である生理的要因(physiological)、薬物の副作用や離脱による睡眠妨害がおこる薬理学的要因(pharmacological)、心配事やストレスなどによる緊張の高まりで生じる心理的要因(psychological)、気分障害や不安障害などの精神疾患に合併する不眠(psychiatric)が挙げられる.

大学院課題7:セロトニン症候群とドパミン神経系の関係を述べよ。またセロトニン症候群の既往のある患者に、安全に使用できると思われる抗うつ薬は何か。

 セロトニン症候群症例の50%近くにドパミン神経系の関与と思われる症状が認められたと報告があり、D1受容体刺激が体温上昇を引き起こしている可能性が指摘された.動物モデルの実験で、仮説通りセロトニン症候群にはドパミン神経系の興奮が関与し、D1受容体拮抗薬が高体温抑制に至った.Sternbachはセロトニン症候群は5HT1A受容体刺激によるものと提唱しているが、5HT1A受容体刺激薬は体温を低下させる作用がある.一方、5HT2A受容体刺激薬が高体温を引き起こすのではないかという懸念から動物モデルの実験で、5HT2A受容体刺激を行うと体温上昇が有意に認められた.以上の薬理学特性から、D1受容体拮抗作用と5HT2A受容体拮抗作用をもつmirtazapineが有用になりうると考えられた.さらに動物モデルでの試験でmirtazapineがセロトニン症候群の高体温を抑制した結果から、セロトニン症候群の既往のある患者に使用できると思われる抗うつ薬はmirtazapineといえる.

課題はあと半分くらい

大学院課題4:2000年代以降、精神疾患患者の増大により向精神薬、特に抗うつ薬の市場は活性化しているが、一部の製薬会社は新規抗うつ薬の開発から撤退する動きを見せている.その理由を説明せよ.

Photo by Pixabay on Pexels.com

 各国で向精神薬の売上が増大することにより行政の財政を圧迫するほどの問題が生じたこと、同種薬の開発に対する批判が相次いだことが挙げられるが、最たる理由はモノアミン仮設を超えた新規抗うつ薬が標的とする分子同定が困難であることが考えられるだろう.他にも英国のように認知行動療法のエビデンスが蓄積され、抗うつ薬以外の治療法にも行政が目を向けるようになったことも指摘される.

課題はまだまだある

大学院課題3:遺伝子の変化がどのようにして精神疾患の原因となるか、その概要について説明せよ.

Photo by Laura Woodbury on Pexels.com

 まずは単一遺伝子の突然変異による精神疾患、すなわちメンデル遺伝に従う遺伝子の変異が発症の引き金となることがある.例として女児のみに発症するRett 症候群(転写抑制因子MECP2の遺伝子変異)や常染色体優性遺伝する、huntington 遺伝子のCAG repeat 延長によりHuntington 病が知られる.一方でメンデル遺伝に従わない、遺伝子の多型による機能変化が精神疾患に関与することがある.主に発達障害(SHANK3遺伝子、CADPS2遺伝子)、統合失調症(DISC1遺伝子、COMT遺伝子)、うつ病(SERT遺伝子)において遺伝子多型がエンドフェノタイプとして知られている.他にはエピジェネティクスによる変化が挙げられる.DNAの塩基配列の変化なく可逆的に遺伝子機能の発現が変化することである.DNAメチル化、ヒストン修飾が関与することで遺伝子発現量の増減が生じる.栄養状態、生育環境が影響すること、妊娠中や生後早期に活発に生じることが知られることから環境に適応した遺伝子発現調節ともいえる.これらによる疾患に発達障害や統合失調症、うつ病の関連が考えられている.

こういう課題もある

大学院課題2:中世までの精神医学の歴史は組織的迫害の歴史でもあり、精神疾患患者は処罰にも似た残酷な扱いを受けていた.その概要について説明せよ.

Photo by Wendelin Jacober on Pexels.com

 中世まで、人々は合理的説明のつかない現象は超常現象と捉えていたとされる.精神疾患も神や悪魔といった超越的存在の為せる業と考えられ、なにか「悪いもの」が体の中に入ることによって生じるとしていた.精神の座をめぐる議論は有史以来続いていたが、治療法あるいは処置は上記の考えによって瀉血、浣腸、熱湯をかける、穿頭するといったものであった.

 模範解答を見るとあんまり頑張ってかかなくてもいいんだということがわかりました.

あと半分の課題

大学院課題5:functional MRI(fMRI)におけるblood-oxygenation-level dependent (BOLD) contrastについて簡潔に説明せよ.

Photo by Pixabay on Pexels.com

 酸素化ヘモグロビン(oxyHb)は反磁性体、脱酸素化ヘモグロビン(dHb)は磁性体である.これらの違いを利用し、両者のMRI信号の差を検出することができる.

 通常の状態では脳内の毛細血管内でoxyHbは組織に酸素を一定の割合で供給、dHbに変換されるが、神経活動が亢進すると血流が過剰に増加し、需要を上回るoxyHbが供給される.その結果、磁性体でありMRI信号を減弱させるdHbが減少し、T2信号強度が増す.安静時と亢進時の信号強度の差分をはかることで、脳内のどこで酸素供給が活発に行われたかを検出することが可能となる.

面白くもない課題

大学院課題1:単極うつ病に比較して、双極うつ病で見られることの多い臨床的特徴をまとめなさい.

Photo by Marcel Winger on Pexels.com

 単極性のうつ病では、薬物治療に抗うつ薬を用いることは通例であるが、双極の症例で抗うつ薬の使用は躁転、自殺、急速な発揚・焦燥を賦活する可能性がある.双極性の症例ではリチウム反応性を認める.双極うつ病をもつ患者には双極性障害の家族歴があることや、軽躁状態の病歴が含まれていることが多い.日本うつ病学会ガイドライン(2012年)によれば、双極性うつ病の鑑別は以下の5つ以上とされる.すなわち、

  • 過眠
  • 食欲亢進
  • 精神運動性の抑制
  • 精神病症状
  • 気分症状の不安定さ
  • 若年発症(25歳以下)
  • うつ病相の再発(5回以上)

一方で大うつ病は以下の4つ以上が参考となる.

  • 就眠障害、不眠
  • 食欲低下(体重減少)
  • 活動性の低下はみられない
  • 身体的愁訴
  • 25歳以上の発症
  • 6ヶ月以上の罹病期間
  • 双極性障害の家族歴なし

 これら臨床的特徴は大規模多施設研究(Perlisら、2006年)でのロジスティクス回帰モデルで双極性と単極性のうつ病を比較した際にも顕著であり、特に双極性障害の家族歴、過去のうつ病エピソードの数が多いことはオッズ比の示すところにおいても統計学的に有意である.