私の考えていること

 ある一つの著作なり文人について読み調べると、思いがけずとある箇所で他の著作家について記されていることがある.その著作家というのは以前から関心を寄せていた人物であることが多い一方で、それ以上の関心を留保していたことがよくあった.引用のこともあれば、実際に人物らが出会っていた、同じ場所を出入りしていたということを知る.作りかけのジグソーパズルの一ピースが意図せず偶然当てはまるような感覚で、心の中でもぴたりと符合する心地よい感覚を覚える.私が飛翔体となって巨大な地上の文学を暗雲たる空から俯瞰するとすれば、雲と雲の切れ目が少しだけ広くなって、わずかに地上の景色が見えるような、そんな感じでもある.そんなことが何度かあったから、それについて短いけれどお伝えすることとし、私の展望と合わせてここに記そうと思う.

 一つは、Khalil Gibran (ハリール・ジブラーン)のこと.私は、ずっと前から書店のみすず書房のコーナーに、神谷美恵子の著作が並んでいて、その中にGibranの詩訳が置いてあったのが気になっていた.名前からして西アジア出身の人物かな、という類推のもと、パラパラと本をめくったことがあった.神谷美恵子は木下杢太郎(太田正雄)が皮膚科教授であったころの東大医局に出入りしていたと後に知った.こうした縁は文学上直接な関係があったわけではないにせよ、人々は何らかの奇妙な引力でお互いに惹かれ合うのかもしれない.そういうしかない.

 Gibranは当時オスマン帝国の支配下にあったレバノンの出身であること、詩作がよく知られていること、特に「The Prophet:預言者」が世界中で翻訳されていることを私は知った.和文翻訳は確かに大きな書店でも並んでいて、有名だ.だが、原文は地方では通信販売でしか手に入らない.他言語であれば尚更である.私は別の時期に、GibranがThe Prophetを最初はアラビア語で構想を練ったことを知る.彼は若い頃に渡米し英語の素養を身につけるが、帰国しアラビア語の高等教育をも学んでいる.

 幸運にもアラビア語版と原文同時収録の電子書籍を手に入れることができた.私はあまりKindleを使わないから不慣れだが、1000円未満で入手できたのは良い.本の紹介を見ると訳に20年ほどかけたと書いてある.何という長い旅路であることか.これが1000円未満程度になってしまうとは物の価値はよくわからない.私はKindle unlimitedにも入っているから佐久間彪訳の邦訳を無料で読むことができる.そして早速読んでみた.私が感じたのは、思ったほど分量がないことと大変読みやすいということであった.ただ、読みやすいのとわかりやすいというのは意味が異なる.一言一句にかけるエネルギー量が他の作品と違うであろうから、何度もよく読む必要がある.これは何度も味わえるということだから、嬉しいことこの上ない.預言者という題名であるが、人生における手引きのような感覚で、預言者アルムスタファ(المصطفى)が人々に助言を与えるといった内容だ.私は原文を読んでいないから書評はこれからとなる.そして私はアラビア語の勉強に相応しいであろう教材をようやく入手できたから少しずつ、勉強がてら逆翻訳してみようと思っている.近いうちに紹介したいと思う.

 もう一つはRabindranath Tagore(ラビンドラナート・タゴール)のこと.私は最近、Gibranのように非英語圏の人物が優れた英文を著す、という事実に大変心惹かれている.勿論、亀吾郎法律事務所でお世話になっている岡倉天心も非英語圏の優れた著述家であろうと私は思っている.このようなことを言うのは無知を晒すようで恥ずかしいのであるが、私は、自国文化のことを表現するのに自国の言語以上に優れたものはないと思っていたことがあった.何という愚かさ.そんなことはないのだ.少なくとも天心はその試みにおいて成功している.もちろんGibranも成し遂げているのだろう.そしてTagoreも、私の知らない数多くの文人達も.私は天心とTagoreが親交を持ち、両者が互いに行き来したという事実を知り、益々興味が湧いている.Tagoreは天心の死後に彼の墓を訪れているという.Tagoreは五浦にいたことがあったのか.彼ははベンガル語でGitanjali (ギタンジャリ:গীতাঞ্জলি)を著し、後に英文で同著を書いたという.いつか彼の作品を読んでみたいと思っている.

 こうした人々が非母国語で文学作品を創作するというのは、心做しか大いに勇気づけられるものではないのかなと思う.特に語族が大きく異なる文化圏に暮らしている身としては.

 時々私は英文をブログに載せるが、どう贔屓目に見ても私の英文はよくできているとは思えない.様々な瑕疵があるに違いない.だが私は私なりの英文を書いていこうと考えている.そして後から見直してみたり、他者の批評を謹んで受けて少しずつ良いものを目指していきたい.

 最後に、アイスランド出身の作曲家の歌詞を紹介してお終いにしたい.彼はÁsgeir Trausti(アウスゲイル・トロスティ).彼の母語は勿論アイスランド語であるが、英語の美しい詩を書いている.

King and Cross

Glistening nighttime dew, and she is walking with me.  

From the house of red, I hear a child crying.  

Foxes heading home, their prey hangs from their jaws.

And the forest knows, but it won’t share the secret.

When the king takes sides, leaving moral minds; soldiers take their share. Nighthawks seem to sense that now is the time.  

Deep inside them burns the raging fire of life.

He’ll take back what he owns.

Death cannot take hold, if I can keep momentum.  

Fortresses of stone, turn into crystal tears soothed by southern winds; I’ve found my strength now.  

And nobody knows, and we must keep their secret.

When the king takes sides, leaving moral minds; soldiers take their share. Nighthawks seem to sense that now is the time.

Deep inside them burns the raging fire of life.

He’ll take back what he owns.

When the king takes sides, leaving moral minds; soldiers take their share. Nighthawks seem to sense that now is the time.

Deep inside them burns the raging fire of life.

He’ll take back what he owns.

In the Silence, 2013

投稿者: 吾郎

2019年12月11日に事務所創設.法律以外の様々な問題を取り扱います.Office est. 11/12/19. Our articles include essay, translation, study about literature, psychiatry(psychopathology), humanities and sometimes roofless vehicles.

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