暴食ライフ、ベルゼブブと化した若輩

 皆さんは台湾に行ったことはあるだろうか.「行ったことありますよ」という方もいればそうでない方もいるだろう.台湾に求めるものは人それぞれで「どういう系統が好きなの」と問われれば十人十色の返事が来るに違いない.その中でも「そうですね、私は夜市を歩くグルメ系ですかね」という回答はきっと多そうだ.私も何度か訪れたことがあるが、少ない体験の中で特に心に残った食べ物を紹介してみようと思う.はじめに断っておくと、観光情報を提供するものではなく、感想を述べるに留めるので、有益な情報が安易に入手できると誤って期待してしまわないようにお願い申し上げる次第である.

阿宗麺線

 トロトロの鰹出汁ベースとするスープにクッタリした麺と牛もつが放り込まれお好みのチリソースとニンニク、酢でカスタマイズできる一品、パクチーの香りが清涼感をもたらす.大で70元.とてつもなく美味い。繁華街の中にあるのでやかましいし、なぜか怪しいおばあさんがしつこく話しかけてくる珍事もあったがこのお店のために訪れる価値があると思う.

趙記菜肉饂飩大王

 セロリと海苔のスープに一口ではとても入らないボリューミーなワンタンが小で6つ.具材に香りを引き立てるセロリを入れるのは日本の才覚では想起不能、天才の所業である。ワンタンの中身も尋常ならざる密度で肉と野菜で幸せを運ぶ.95元.途方もなく美味い。夜の9時近くに入るとほとんどお客さんはおらず、「わんたん?」と訊かれるのでおとなしく首を立てに振れば良かった.

鴨肉扁

 ガチョウの肉専門店らしく、チャーシューっぽい肉はガチョウのようだ.米麺を注文。スープはこれまで味わったことのない感覚で、山岡家のプレミアム塩とんこつ以上の脂ぎっとりではあるが箸が進む恐ろしい思いをした.麺はもはやスープと融合しており、麺の細さは白髪の老婆のそれと同等である.老婆の白髪を食ったことはないが食中に羅生門の件を思い出した.60元で美味い.

紫米飯團

 朝食のお粥のお店が閉まっていたので途方に暮れていたところ、数秒で台湾おにぎり屋さんの屋台を発見。一瞬で憂いは晴れ、おにぎりを注文。紫色のもち米を薄く伸ばし、その上に具材をあれよあれよとぶち込んでいく。キムチ、牛蒡の漬物など、穀類系の味もしたが、何を食っているのかわからないがとにかく美味い。センターに揚げパンを加え、完成.神の創造物である.綜合、という一番人気らしいものを頼んだのでおそらくなんでもかんでも突っ込まれたのだろうが、働かないで食う飯は美味いぞ.アイスミルクティーもくれた.60+20=80元.台湾の食文化の優越を見せつけられた、美味い.写真は食べかけである.申し訳ない.

阿江鱔魚意麺

 鱔魚意麺とかいう、田うなぎをなんやかんやして意麺に和えた一品.意麺というのは台南のご当地麺のようだ.黒胡椒とニンニクのシンプルな味付けだが、魚の骨や臭みが一切なく川魚の歯応えを堪能しつつ、縮れ麺をすする.120元.文句なしに美味い.勲章ものである.調理する親父に「ニイチャン、ヤキソバ?すーぷ?」と訊かれるので「ヤキソバ」と答えてもいいし、汁そばが食べたければ「すーぷ!」と答えても失敗することはない.食べてると「ニイチャン、うまい?イチバン?」と訊かれる.にこにこしながらうなずいているだけで良かった.さばいてあるウナギは鮮血の色だし、調理する親父の手は痛々しい傷だらけで心配になるがきっと神々の寵愛によって大丈夫なのだろう.

蚵仔煎

 養殖した牡蠣を卵で包んだ一品、シャキシャキもやしなどを乗せて鉄板で焼く.台湾のお好み焼?らしきものと考えて良さそうだ.元来自分は牡蠣が苦手であるが、この料理は大抵小粒の牡蠣なので生臭さは感じない.様々な病原性のウィルスが気になる諸兄も多いかもしれないが、未だ敗北は喫していない.いろんなところで売っているので、自分だけの蚵仔煎を見つけてもいい.見つけなくてもいい.

蒜味蟹脚

 半分に割った蟹にニンニクをこれでもかと練りこんだのち、油であげたパワーディッシュ.終始ニンニク.徹頭徹尾ニンニク.蟹の足はばらされていないので自分でボキボキ節足を破壊する必要がある.ものすごくベタつく.美味しいのだが、取り扱い注意である.値段は忘れてしまった.適当な写真がなかったので昼寝しているおばちゃんとソーセージの一枚をどうぞ.

牛排

 夜市で食べたのは要するに牛肉ステーキのようなものだった.ファミレスで見かける鉄板の上にジュージューの肉.肉の下には焼きうどん.目玉焼きもセット.デミグラスソースがかかっている.提供されるスピードが尋常でない.100元くらい.うーん、小生はじーぱいが好きだなぁ.

魯肉飯

 台湾を訪れたら万人におすすめできるご飯だと思う.ガイドブックには絶対載っているに違いないやつ.味玉を一緒に注文してハフハフ口の中に頬張るといい.ファンタジーが起きる.あまりにも美味しいので我が家で再現してみようと炊飯器で作ってみたが、自宅でもファンタジーを体験した.五香粉の香りはくせになる.あれだけ感動したはずなのになぜか魯肉飯の写真が一枚もなかったので、孔子廟の亀をご覧になっていただく.

鶏排

 いわゆるフライドチキン.懐かしい駄菓子のようなジャンキーな香りがしたり、ピリ辛だったり、なんだか香ばしくて熱々で硬口蓋の皮がめくれそうになる感じ.どれも大きくて食べ出がある.様々な鶏排があるので、食べ比べをしたが、私は娘娘鶏排(にゃんにゃんじーぱい)が好みであった.鶏排には冷たいドリンクがよく合う.罪深い.

金得春捲

 薄いクレープ生地の中に、キャベツ、エビ、豚肉、ニンニクなどがたんまり詰め込んであって、砂糖をまぶしたピーナッツの香りも漂う.このメニューの考案者は一体どうしてしまったのだろうか.なぜこんなことを考えてしまったのか.そんなことが気になる.淡々と猛スピードで売りさばくお店.お客は絶えない.美味しいのだが、形容しがたい.

蝦仁飯

 エビご飯.鰹出汁で炊いたであろう少しびちゃびちゃのご飯に小エビが乗っている.ご飯は少なめなので食べきれないことはそんなにない.おやつ感覚で食べてしまえる.箸がでかいので湿ったご飯粒を回収するのがなかなか大変だった.簡単そうで実は難しい奥深い味.

擔仔麺

 エビの出汁が効いたスープに肉そぼろとニンニクの香りがするラーメンのようなもの.老舗の擔仔麺を食べたが、なかなかに美味しい.麺はコシのある中細麺で、スープとよく合う.ものすごくうまい、おかわり!というわけではないが、ハズレが全くない台湾は恐ろしい.

 この他にまだまだ食べた料理はあるのだが、丁度いい写真がない、あるいは写真を撮っていない、投稿者が息切れしてしまったという不運により掲載できていない.写真があるからといってよく撮れているわけでもないから、筆者のカメラワークの下手さがよく分かるであろう.台湾を訪れて感銘を受けるのは、みんな人柄が温和で、言葉足りない私になんとか疎通をとろうとしてくれる親切心である.(唯一タクシーの運転手1名とは反りがあわなかった)よく親日だから、という意見はあるが、決して日本人にだけ優しいわけではなくて、外から来たお客さんを厚遇してくれる器の大きさが台湾の方々には備わっているのだろう.心から尊敬する.

 何度でも訪れたいと思う場所だ.いつか例の感染症が収束した暁には、暴食の大罪人として、また盛大にご飯を食べて罪を重ねたいものである.

北海道走行回想録

 以下は過去に妻と旅行に出かけたときの自動車短評です.あえて略語や略称を使っていますが、ご宥恕ください.

Photo by Kaique Rocha on Pexels.com

 いつだったか初秋にフェリーを使って北海道を訪れた.車両の前後に二人1週間分の荷物を積んでの旅行であったが、そこそこ重量感を感じる走行だった。自然吸気ゆえの立ち上がりを常に自覚する加速感であるが、今回はそれをより一層感じるものであった。かといって苦しそうな加速というわけではないのだが、普段使いの加速感をよく知っている自分としてはもう一声欲しかったのは正直なところである。しかしながら十分な働きをしてくれたのは事実で、幌を開けて20度くらいの気温で公道走行する分には風が凪いで心地良い。五感を刺激し決して速度だけが車を優越するものではないのだと気づかせてくれる。決して性能が悪いと言っているわけではない。細かい話をすると、PDKはグランドツアーには優れたシフトチェンジをした。加速が必要な時はキックダウンによって瞬時に2速まで落ち猛チャージによって、一気にスポーツカー足らしめる官能的な炸裂音を伴う。しかし、ある程度速度が達して満足すると、素早くオーバードライブになるべく7速に入るため、ある程度ギアを低く保つには積極的にパドルシフトでマニュアルにするか、スポーツモードで引っ張る必要がある。ガンガン走るのも元気がいるし、同乗者をのせてそんな走りをし過ぎても興が冷めるわけで、流石に緩急は必要だ。北海道にはいろは坂のようなタイトカーブが多いわけではなく、高速コーナーの方が多く、長いのでクロスレシオのギア比の車の方が総合的に良い。ボクスターはその辺、ケチのつけようがない。PASMを使用してみたが、推定100キロ増の車重ではすでにサスペンションは硬さをもっており、快適性が無駄に損なわれる可能性が高かった。北海道の郊外の路面はおおよそ不整であるために凹凸を拾い、ハンドルも流されるほどに敏感に路面状況を伝えてくる。決して車が悪いわけではなく、道路環境の劣悪さが大きな誘引だろう。したがって、今回の旅行ではアクティブサスペンションはほとんど使用せずノーマルライドでの走行を主とした。同乗者がいることも配慮してである。冷暖房やナビゲーションシステムの使いやすさは通常通りであった。レーダー探知機も有効活用し、一度ネズミ捕りに美瑛で遭遇した他はヒヤリハットすることはなかった。時代の潮流だろうが、煽り運転や煽られる運転に一層気を配る運転でもあった。風貌からはこちらが煽る側に立ちそうな装いなのだろうが、基本的に当方は流れに乗って適材適所で追い越しをかけるくらいだから至極真っ当な運転をしたように思う。

 かなり恐怖を抱いたのは日高峠の濃霧の中、登坂車線の追い越し側を一定の速度で巡航していたところ、一瞬にしてスイフトスポーツが後方視界に出現、よもや突かれるくらいの距離まで詰められていたことであった。酷く狼狽した、というか狼狽える隙もなく接近され、左から強引な追い越しを受けたのは衝撃であった。ポルシェがスズキに負けるなんて、という幼稚な次元ではなくて、優劣どころか、濃霧の夕方で視界不良な状況において極めて自己中心的な運転をするものがいるのかと思うと、いかに自分が気をつけていようとも事故が避けられない運命もあるのだと思った。ハンドルを握っているうちはこの恐れが付きまとうのだろうと感じるしかなかった。まして、これからの運転が一人だけではなくて、一緒に乗ってくれる人がいるものになるのだから尚更のことである。ボクスターの欠点は左後方視界の不良である。左からの接近が感じられにくいのである。ミラーでも死角が存在する。特に追越車線を走るときに左からの近接が生じると緊張感を感じないまま一寸先が暗転する可能性がある。よって、常に後方視界は気を配っている。走行の半分は後方確認といっても過言ではないくらいの配慮がいると思う。

 それ以外は心配なく時間が過ぎた。一足早い冬の訪れを肌で感じることができた。この時間が私だけのものではなく、一瞬一瞬を一緒に感じてくれた人がいたのは私の最大の喜びである。ボクスターでのグランドツアーを敢行するなら期間は1週間未満がベストだろう。パワーウェイトレシオの問題があるように思われる。SやGTSなら話は違うかもしれない。982ならではのターボだったら許容できるかもしれない。おそらく911やパナメーラの方が豪華で優雅に北海道を走行できるだろう。荷物も入るしパナメーラなら四人載せても一級の走りをするに違いない。しかし、私の身の丈にはボクスターで良い。決して速くないが、それ以上のものを感じることができると思う。異論はあるだろうが、この考えとそれに至るまで私たちが走ってきた時間は不可侵の領域である。